現在の日本の中小企業は、経営者の高齢化が進む一方で、後継者の確保が大きな課題になっています。多くの経営者が引退を考える年齢に達しているにもかかわらず、家族内に後継者が見つからない、または後継者候補が事業を引き継ぐ意思がないといったケースが増えています。
 
事業承継が円滑に進まない場合、企業はさまざまなリスクに直面します。まず、事業の方向性が不明確になり、経営の停滞や混乱を招く可能性があります。最悪の場合、事業の縮小や廃業に至り、地域経済にも悪影響を及ぼす恐れもあります。
 
このようなリスクを回避し、企業の存続と発展を図るためには、早期の事業承継計画の策定が不可欠です。その一つの有効な選択肢として、事業承継M&Aが注目されています。

一般的なM&Aは、企業の成長戦略や市場シェアの拡大を目的とする場合が多いのに対して、事業承継M&Aは、主に後継者不在という課題を解決することを目的としています。
 
事業承継M&Aは、単に事業を引き継ぐだけではなく、企業文化や理念の継承も重要な要素になります。これにより、従業員や取引先に対しても、事業が安定して継続されるという安心感を与えることができます。
 
また、一般的なM&Aは、競争力の強化やシナジー効果を追求する一方で、事業承継M&Aは、企業の存続そのものを目的とする場合が多く、より長期的な視点での戦略が求められます。

事業承継M&Aには、以下のようなさまざまなメリットがあります。
 
1. 企業の存続と成長の確保
 
事業承継M&Aは、後継者不在の中小企業にとって、企業の存続と成長を確保する効果的な手段です。譲渡先の企業が事業を引き継ぐことで、経営体制が継続され、事業活動が途切れることなく続けられます。
 
また、新たな資本や経営資源を獲得することで、事業の拡大や新しいビジネスチャンスを追求することが可能になります。
 
2. 従業員の雇用維持
 
事業承継M&Aは、従業員の雇用を守る重要な手段でもあります。事業が継続されることで、安定した雇用環境が維持され、従業員は将来に対する不安を軽減できます。さらに新しい経営者のもとで、新たな挑戦や成長の機会が提供されることで、従業員のモチベーション向上にもつながります。
 
3. 経営者の引退後の安心感
 
事業承継M&Aは、経営者が引退した後も、企業が存続し、発展するという安心感を提供します。後継者が見つからない場合でも、適切な買い手に事業を引き継ぐことで、長年築き上げた企業が将来にわたって存続することが期待できます。また経営者は、安心して引退をすることができます。
 
4. 経営基盤の強化
 
事業承継M&Aは、経営基板の強化にも寄与します。例えば、買い手企業との間でシナジー効果が生まれた場合、競争力の向上が期待できます。
 
また、経営ノウハウや技術の共有が進むことで、事業の効率化や新製品開発などが促進され、企業全体の成長も期待することができます。
 
5. 顧客基盤と市場シェアの拡大
 
事業承継M&Aを通じて、買い手企業の顧客基盤を活用することも可能です。これにより、既存の顧客との関係を強化しつつ、新たな顧客層へのアプローチも可能になります。また、新市場への参入機会も広がり、事業の成長を支える新たな収益源を確保することも期待できます。
 
事業承継M&Aは、中小企業にとって、企業の存続と成長を支えるための手段の一つになります。これらのメリットを活用することで、企業はより安定した未来を築く可能性を広げることができます。

アドバンストアイ株式会社がお手伝いをした事業承継M&Aの一つに、化学品材料メーカー企業があります。事業承継M&Aの背景は、後継者不在。また売却の条件は、従業員の雇用維持、労働環境の改善でした。

同じ業種に会社を売却した場合、効率化のために従業員がリストラされる可能性が高くなります。そのため、買い手は異業種の大手商社に決まりました。
 
この事業承継M&Aにより、売り手企業は買い手企業の傘下でさらに発展し、従業員の雇用維持、労働環境の改善を実現することができました。
 
この成功事例では、事業承継M&Aのメリットが具体的に現れています。
 
企業の存続と成長の確保
売り手企業は、事業承継M&Aによって事業を存続させることができ、買い手企業の経営資源を活用して、さらなる成長を実現しました。また、買い手会社の技術力を活かして、新たな新製品の開発が進みました。
 
従業員の雇用維持
 
売り手企業の従業員はそのまま雇用され、また、従業員の労働環境も改善されました。新たな経営者の下で、従業員のスキルアップやキャリアの成長もサポートされ、従業員のモチベーションが向上しました。
経営基盤の強化
 
買い手企業とのシナジー効果により、生産効率が向上し、コスト削減が実現しました。また、買い手企業のノウハウを活用することで、競争力を高めました。
 
このように事業承継M&Aは、企業の存続や成長を支える有力な手段となり得ます。事業承継M&Aを成功させるためには、自社の事業承継に向けた適切な戦略を検討することが重要になります。

事業承継M&Aを成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。適切な戦略と計画を立てることが重要です。
 
適切なM&A会社の選定
 
事業承継M&Aは、複雑なプロセスを伴うため、専門的な知識と経験を持つM&A会社の支援が不可欠になります。
 
適切なM&A会社を選定することで、企業価値の適正な評価や、適切な買い手企業の選定、交渉のサポートなど、M&Aプロセス全体をスムーズに進めることができます。
 
M&A会社には、仲介会社とアドバイザリー会社の2つのタイプがあります。これらの会社の違いを理解した上で選定することが大切です。会社の違いについては、以下の記事にまとめているのでご参考にしてください。
 
【超重要！】失敗しないM&A会社の選び方
 
事前の“磨き上げ”
買い手企業と交渉をはじめる前に行う作業に“磨き上げ”というものがあります。この磨き上げでは、売り手側の会社に存在する問題や課題がないかを調査して、改善するなどの作業を行いましす。
 
磨き上げの実施の有無によって、会社の売却価格や希望条件などに大きな影響を与えるので、大切な作業になります。磨き上げについては、以下の記事にまとめているのでご参考にしてください。
 
事業承継M&Aでの“磨き上げ”の重要性と方法
 
PMIの重要性
 
事業承継M&Aが完了した後の統合プロセス（PMI: Post Merger Integration）は、事業承継M&A成功に不可欠な要素になります。PMIでは、組織や業務の統合、システムの連携、従業員の教育などが行われます。
 
適切なPMIを実施することで、M&Aによるシナジー効果を最大化し、事業の一体化を促進することができます。PMIの計画は事前に立て、M&A後も継続的に進捗を確認し、必要に応じて修正を加えることなどが重要です。

事業承継M&Aは、中小企業にとって、後継者問題を解決し、企業の存続と成長を確保するための手段の一つになります。
 
事業承継M&Aの主なメリットとしては、企業の存続と成長の確保、従業員の雇用維持、経営者の引退後の安心感、経営基盤の強化、顧客基盤と市場シェアの拡大などがあります。これらのメリットにより、企業は新たな資本や経営資源を得て、事業の継続性を確保しつつ、さらなる発展を目指すことが可能です。
 
これから事業承継を考える中小企業にとって、事業承継M&Aは、検討すべき重要な選択肢になります。適切なM&A会社の支援を受け、計画的に進めることが大切です。