事業承継M&Aでの“磨き上げ”の重要性と方法

会社を売却するとき、買手企業と交渉をはじめる前に行う作業を「磨き上げ」といいます。
 
この磨き上げでは、売手側の会社に存在する問題や課題がないかを調査をして、改善するなどの作業を行います。
 
磨き上げの実施の有無によって、会社の売却価格や条件などに大きな影響を及ぼす大切な作業になります。

事業承継M&Aで磨き上げはいつ行えばいい?

会社を売却するとき、一般的には以下の流れで進めていきます。
 
ステップ1) M&A会社と契約をする
ステップ2) 事業計画を策定する
ステップ3) 買手企業を探す
ステップ4) 買手企業と交渉する
ステップ5) 売買契約を結ぶ
 
会社の磨き上げはステップ2の「事業計画を策定する」段階で行います。

>関連コラム:M&Aとは?種類別のメリットと基本的な流れを徹底解説します

なぜ磨き上げが必要なのか?

なぜ、磨き上げをする必要があるのでしょうか。
 
それは、M&Aの現場では、売手企業のどんな点が評価されるのかはさまざまだからです。
 
利益が上がっていたり、預金や不動産などの資産があれば、それらが評価されて売却価格に組み込まれるのは当然ですが、会社の価値はそれだけではありません。
 
資産や利益が“会社の見える価値”だとすれば、従業員や技術、顧客リストなどは、“会社の見えない価値”だといえます。
 
会社の見えない価値、つまり“会社の強み”を見つけるために磨き上げを行います。

事業承継M&Aの磨き上げ1)会社の情報を整理する作業

事業承継M&Aの磨き上げ1)会社の情報を整理する作業

事業承継M&Aの磨き上げは、“会社の情報を整理する作業”と財務や実務の面から“会社の強みを見つける作業”を行います。
 
会社の情報を整理する作業では、法務、財務、組織・人事・労務などの観点から、会社売却の成立を阻害するような要因はないかどうかを調査します。

法務
  • 株主は適法に株式を取得しているか
  • 会社として成立させるための基本的事項が有効に守られているか
    (決議や登記手続き、諸規則・規定の整備、許認可の届け出等)
  • 法令遵守違反はないか
  • 主要な取引先との契約が実態に即して締結されているか
  • 重要な資産や技術の使用が法的に有効な状態になっているか
財務
  • 不適切な会計処理や税務処理はないか
  • 未払い残業代ほか簿外債務はないか
  • 訴訟ほか偶発債務の恐れはないか
  • 循環取引、継続的に不当な値引きや過剰仕入等、不適切取引や不利益取引はないか
組織・人事・労務
  • 不当な労働環境で勤務させられていないか
  • 心身ともに不健康な社員が多く、離職率が非常に高い状態になっていないか

もし、これらの事項に該当箇所がある場合、正常な状態に戻す、または正常な状態に戻すための手順を明確にします。
 
これらは一部のチェック項目になりますが、中堅・中小企業では、ほとんどの会社で何らかの問題が発見されます。磨き上げを行い、速やかに正常な状態に修正することが大切です。

事業承継M&Aの磨き上げ2)会社の強みを見つける作業

事業承継M&Aの磨き上げ2)会社の強みを見つける作業

会社の情報を整理する作業と同時に、会社の強みを見つける作業を行います。
 
この作業では、財務面と実務面から調査を行います。財務面では、取引契約の整備、月次決算の導入、各種経営管理指標のデータ化、社内規定の整備、内部統制の充実などを必要に応じて実行します。同時に、購買手法の改善、金融機関取引の整備、固定費削減の実施なども検討します。
 

財務の磨き上げ3つのポイント

事業承継M&Aの磨き上げで、財務面でのポイントは以下の3つになります。

損益を改善する
  • 不採算部門・不採算商品・不採算サービスは廃止する
  • 無駄な経費は改善する
  • ボリュームディスカウントで仕入れや購買コストを抑える
  • 合法的に効果的な節税対策を行う
資本効率を上げる(賃借対照表の改善)
  • 事業に必要のない資産や遊休資産はできるだけ処分する
  • 有利子負債は返済する
  • 多額の内部留保がある場合は、税務面での不利益がないようであれば配当の払い戻し等を検討する
キャッシュフローの改善
  • 資金回収の早期化はできる限り努力する
    資金回収サイトを短くすることは、回収リスクが軽減されるだけではなく、DCF法で評価される場合に非常に有効になります。

月次決算と事業計画の整備は必須

売却先候補を増やすためにも、月次決算の策定は磨き上げでは重要な部類に入ります。
 
現在、月次決算を行っていない場合は、数カ月から半年くらいをかけて、月次で経営管理をする仕組みを定着させることが必要です。
 
また、将来の事業計画をしっかりと立てることも重要です。なぜならば、M&Aでは売手企業の収益の見通し、設備投資や人材計画、商品の市場への投入計画、研究開発など、売手企業の考えを理解するために、買手企業は必ず事業計画の開示を求めるからです。
 
事業計画を参考にして売手企業の価値評価を行うため、将来の事業計画をしっかりと立てることが大切になります。

実務の磨き上げ2つのポイント

事業承継M&Aでは、財務の磨き上げのほかに、実務の磨き上げも行います。
 
この実務の磨き上げは、会社の強みを見つける作業になりますが、会社の強みを見つけるためには、以下の2つのポイントがあります。

自社のエッジを立てる
  • 自社の特長について、事業の本質や広がりを想像できるような表現ができないか?
  • ・「〇〇だったら、あの会社」という価値があるか
    ・「大手企業と取引している」
    ・「まだ売上にはつながっていないけど、こんなノウハウがある」

見えない価値を「見える化」「使える化」する
  • 顧客・取引先・研究開発などの分野で、可視化されていない会社の価値を「見える化」し、「使える化」する
  • ・販売情報、顧客情報などをデータ化する
    ・標準業務についてのマニュアルをつくっておく
    ・「見える化」した価値を「使える化」する

ここでいう「使える化」とは、例えば、他社の受託開発で開発した技術・ノウハウを異業種の第三者に転用できるように許諾をとっておくなど、買手企業が使えるようにしておくことをいいます。

>関連コラム:M&Aとは?種類別のメリットと基本的な流れを徹底解説します

磨き上げは誰が行うのか?

自社で磨き上げの課題を見つけることは容易ではありません。そのため、一般的に磨き上げはM&Aアドバイザーと一緒に行います。
 
社内では、経営者と管理担当部署の一部、そして、調査で必要となる専門性によって、弁護士、公認会計士、税理士などと一緒に磨き上げの作業を行います。

社内の担当者がやるべきこと
  • 株主総会や取締役会、重要な経営会議の議事録の整備
  • 重要な契約書や社内諸規則・規定の一覧整理や手続き
  • 社員の出退勤時間を把握する仕組みの構築
  • 月次試算表の早期作成体制の整備、予実管理体制の運営
  • 事業セグメントや製品・サービスごとの収益データの整備
  • 事業計画の策定
外部の専門家に協力を依頼するべきこと
  • 株主に関する事項
  • 法務に関する事項
  • 財務に関する事項
  • 組織・人事・労務に関する事項
  • 事業に関する事項
  • 経営管理に関する事項
  • 事業計画の策定

磨き上げはやるべきことがたくさんありますが、磨き上げを行うと、会社の強みや価値が明確になるため、余裕を持って買手企業との交渉に臨むことができるので正念場になります。

磨き上げの実行で予想以上の金額で売却ができた成功事例

磨き上げの実行で予想以上の金額で売却ができた成功事例

こちらの会社は、安定的な業績を上げていましたが、後継者がいないこと、中長期的に業界のパラダイムシフトが予測されたため、あえて業績が好調な時期に会社売却の準備に入りました。

項目 内容
会社情報 ・老舗の化学品材料メーカー
・売上30億円
・営業利益は毎年1億円計上
会社売却の背景 ・オーナー経営者に後継者がいないため会社売却を決意
・中長期的に業界のパラダイムシフトが予測されるため大手資本の傘下に入りたい
希望する売却条件 ・従業員の雇用維持、労働環境の改善
・効率化のため従業員がリストラされるリスクがある同業への売却は避けたい
・売却価格よりも、従業員の労働条件、雇用条件を守ってくれる会社に売却を希望

「技術」を「見える化」したら高評価に!

実務の磨き上げを行ったとき、研究開発部門が多くの大手企業の試作品を受託していることがわかりました。
 
さらに、大手企業が求める極めて高い水準の要求をクリアする技術、そして、広く普及している製品の基礎をこの会社が担っていることがわかりました。
 
この研究開発部門の技術やノウハウを「見える化」した結果、大手商社に予想以上の金額で会社を売却することができました。

高値で売却できた会社売却の成功ポイント
  • 技術やノウハウを「見える化」したら、買手企業とのシナジー効果が高く評価された
  • どんな分野の製品に強いかを明確にした
  • 異業種の会社に売却することで、従業員や取引先の関係を維持することができた

この「見える化」は研究開発に限ったことではなく、例えば、商品企画の歴史、マーケティングの成功や失敗の記録を整理して見える化することも、買手企業にとって思わぬ価値につながるケースもあります。
 
もし磨き上げを行わなかったら、会社の収益から算出されただけの価値評価となりましたが、磨き上げを行うことで、シナジー効果も評価された金額で会社を売却することができました。
 
このように、磨き上げを行うことで、M&Aの可能性が広がったり、より良い条件、金額で会社を売却することができます。

お気軽にご相談ください。

会社売却が決まっていない場合でも問題ありません。

また、正式に契約をするまで費用は一切頂きませんのでお気軽にご相談ください。

業界のトレンドなども踏まえて具体的なイメージをお伝えします。

 

03-6225-2880

受付時間│平日9:00~18:00

売却価格を60秒でシミュレーション基本的な財務情報を入力すると、WEB上で会社の売却価格を自動で算定します。
各業界の動向や調査統計情報、株式市場、M&A市場の動向を総合して
売却価格を計算します。

最新のコラム

まずは無料でご相談ください

アドバンストアイには大手上場企業から、中堅企業、小規模企業まで、さまざまな売上規模の会社のM&Aを手がけてきました。
まずはお気軽にご相談ください。