事業承継とは、企業の経営権や事業資産を次世代へ引き継ぐ重要な経営プロセスです。経営者の高齢化や引退に伴い必要となるもので、適切な後継者への円滑な承継を通じて企業の持続的な発展を目指します。
 
近年、親族内での事業承継が困難なケースが増加する中、第三者への事業譲渡（M&A）が、企業の存続と従業員の雇用維持において、重要な選択肢となっています。M&Aを通じて、承継先企業は新たな経営資源やノウハウを獲得し、さらなる成長機会を創出できる可能性があります。
 
一方、買収側の企業にとっても、事業領域の拡大や市場シェアの向上、シナジー効果の創出など、多様な経営メリットが期待することができます。このように、事業承継M&Aは、後継者不在の企業の事業継続の手段だけではなく、企業の戦略的な成長施策としても広く活用されています。

事業承継M&Aは、企業の持続的成長と事業価値の向上を実現する重要な選択肢です。しかし、緻密な計画立案と慎重な実行がされなければ、企業価値の毀損や組織の混乱を招くリスクも生じます。とくに中小企業においては、経営資源の制約や情報の非対称性から、以下のような失敗事例が多く報告されています。
 
1. 従業員とのコミュニケーション不足
 
事業承継M&Aの代表的な失敗例として、従業員とのコミュニケーション不足による人材の流出があります。経営権移転の過程で、従業員への説明が不十分だったため、不安や不信感が募り、核となる人材が退職してしまうケースが少なくありません。
 
とくに技術やノウハウを持つベテラン社員の流出は、企業価値の大幅な低下につながるほか、業績に影響を及ぼすこともあります。
 
2. 事前調査（デューデリジェンス）不足
 
買収側による事前調査（デューデリジェンス）の不足も深刻な問題につながる場合もあります。表面的な財務状況のみを確認し、取引先との関係性や業界特有のリスク、潜在的な債務などを見落としたために、買収後に予期しない問題が発生するケースもあります。
 
事前調査（デューデリジェンス）で、財務リスク等を正しく評価されなかった場合、トラブルに発展することがあります。
 
3. 企業文化の違い
 
企業文化の違いで、統合後に失敗するケースも多く見られます。これまで長年培われてきた経営方針や価値観の違いを無視して統合したため、社内の軋轢が深刻化し、最終的に期待していたシナジーが得られないといった事態に陥るケースも多くみられます。
 
これらの他にも、事業承継の取り組みが遅れたことで、結局、廃業するしかなかったケースや、最近ニュースで取り上げられてる不適切な買い手によるトラブルなどがあります。
 
このような事業承継M&Aの失敗を防ぐためには、十分な時間をかけた準備期間の確保、従業員との丁寧なコミュニケーション、適切なM&Aの専門家と綿密な準備が必要不可欠です。

事業承継M&Aを失敗しないためには、何よりも、早期からの計画的な準備が不可欠です。
 
後継者不在が明確になってから慌ててM&Aを検討するのではなく、2～5年程度の期間を想定して、企業価値の向上施策や必要な体制整備を計画的に進めることが重要です。この準備期間中に、経営管理体制の整備や財務情報の透明化、業務プロセスの文書化などを実施することで、スムーズな事業承継が可能となります。
 
このような作業をM&Aの現場では「磨き上げ」といいます。磨き上げについては、以下の記事にて詳しく説明しているので、ぜひご参考にしてください！
 
事業承継M&Aでの“磨き上げ”の重要性と方法
 
次に、適切なM&A会社を選ぶことも重要です。M&Aアドバイザーや税理士、弁護士など、各分野の専門家と連携することで、企業評価の適正化や税務・法務面でのリスク低減が図れます。
 
とくに中小企業の場合、経営者の個人保証や簿外債務の処理など、複雑な課題が存在することも多く、専門家の支援は不可欠です。
 
また、どのM&A会社に依頼するか?といったM&A会社選びも重要になります。M&A会社には、M&A仲介会社とM&Aアドバイザリー（助言）会社の2つのタイプがあります。それぞれのサービスの違いを理解した上で依頼することが大切です。M&A会社の選び方については、以下の記事にて詳しく説明しているので、ぜひご参考にしてください！
 
【超重要！】失敗しないM&A会社の選び方
 
最近話題になっている事業承継M&Aトラブルの原因は、不適切な買い手によるものになります。このことからも、買い手企業の選定はとても重要だということがわかりますよね。
 
買い手企業を選定する場合は、単なる財務的な条件だけではなく、経営理念や企業文化の親和性、シナジー効果の実現可能性などを総合的に評価する必要があります。とくに従業員の雇用維持や取引先との関係維持、経営者の個人保証の解除など、売り手企業として譲れない条件がある場合は、契約書で明確に定めることが望ましいです。
 
最後にPMI（統合後マネジメント）の計画策定も重要です。統合後の100日計画を具体的に立案し、シナジー効果の実現に向けたロードマップを明確にすることで、スムーズな経営統合が可能となります。

ここでは、事業承継M&Aの主な失敗要因とその対策についてご紹介しました。とくに多い失敗要因としては、従業員とのコミュニケーション不足、事前調査（デューデリジェンス）不足、企業文化の違いなどがあります。これらの問題を防ぐためには、磨き上げの実施、適切なM&A会社の選定、PMI（統合後マネジメント）の計画策定などが重要になります。
 
今後、日本の中小企業が直面する事業承継の課題に対して、M&Aの重要性はさらに高まっていくことが予想されます。企業が事業承継M&Aを成功させるためには、早期からの計画的な準備と、リスクを考慮した綿密な実行計画が求められます。とはいえ、事業承継M&Aは企業の経営者一人で進めることは困難です。自社の課題に一緒に考え、取り組んでくれるM&A会社の選定が、事業承継M&Aを成功させるための第一歩ともいえますよね。
 
アドバンストアイ株式会社は、M&A仲介会社ではなく、M&Aアドバイザリー会社になります。売り手と買い手と仲介するのではなく、売り手、または買い手のどちらか一方と契約をして、依頼者の利益に最大限に貢献するために動くM&A会社になります。事業承継について検討している段階でも、ご相談を受けておりますので、お気軽にご連絡ください。